ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。

潜入・山科邸。

向かい合わせに立つ男女の反対側には、ポカンとした表情で立ち竦む私と慧が並んでいた。

「は・・?守田先輩。何でいるんですか?」

「えーと・・。咲先輩、今日はお2人でご旅行か何かですか?」

ポロシャツにGパン姿の寛貴と、帽子を被りチェックのシャツにカプリパンツ姿の咲。

爽やかな笑顔を浮かべた2人は、遠足気分なのか大量のお菓子と駅弁を買い込んで立っていた。

「昨日の夜、二条から今朝の新幹線で山科さんの実家に行くって連絡が来たから・・。
咲も誘って一緒に行こうと思って!ほら、2人より、4人の方が楽しいだろ?」

「あの・・。ご迷惑だったら失礼するけど。私も美桜ちゃんが心配で・・。
寛貴も今日は珍しく強引で、4人のほうがナチュラルだから大勢で行こうって言い張って。」

苦笑いを浮かべて微笑む咲と、爽やかに微笑む寛貴の気づかいに私は嬉しくなった。

さっきまでの緊張感が少し和らぐ。

「・・・・迷惑です。」

「有難うございます!!みんなで行ったほうが楽しいですよね。
ご一緒出来るなんて嬉しいです!
咲先輩、守田先生!」

不愉快そうな慧とは対照的に、私は溌剌とした笑顔で2人に微笑んだ。

新幹線に乗り込むと、駅弁を頬張り咲先輩と仲良く談笑しながら地元へと向かったので、起きてからの緊張感や不安感は何処かに行ってしまったようだった。

あっという間に2時間が過ぎ去ろうとしていた。

「守田先輩、有難うございました・・。あんなに緊張していた美桜が自然に笑ってる。
秋元さんのお蔭ですね。」

「当たり前だろ。それにお前、2人で行くのは危険すぎるぞ。
特に、彼女の家へ行くのなら木の葉を隠すなら森へ。だろ?人数が多い方が自然だ。」

「そうですね。それに物を見つける為にも、人数が多い方が助かる。」

急に守田が真剣な表情を浮かべて、咲や美桜に聞こえないように小声で囁く。

「ところで・・・。藤堂海の情報で、1つ気になる情報を耳にしたんだ。」

怪訝な表情で見上げた慧の耳にそっと小さな声で告げた。

「大学病院内の違う診療科の入院病棟に、毎日顔を出していると言う話を耳に挟んだ。」

ペットボトルのお茶の蓋をしながら、驚いた表情で寛貴を見上げた慧は、眉根を寄せて顔をしかめる。
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