ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
背を向けたまま、冷たい声で慧が言葉を発した。

「心当たりは沢山あるでしょう。でも、多分当たりです。
そして僕の後ろで貴方の砂をかき分けるべく動いてるのは西園寺家です。
警察も含めた、国家権力の最高位ですよ?
その恐ろしさは貴方もご存知でしょう。
・・・それでは僕達は、失礼します。」

ドサリと、その場に頽れた父が目に入った執事と私はビックリして足を止めた。

「・・は?西園寺だと・・お前・・。私を殺したいのか!?」

「死にたいのなら、お手伝いしますよ?貴方は、父の手伝いもして下さったのでしょう?」

私はビクリと慧の瞳の冷たさを見て震えた。

その一言で十分だった。

藤堂海からハルの父の自殺の話を聞いていた私は、一瞬で全てを理解した。

慧は、ハルは私の父に・・本当の父親を殺されたの?

「まさか・・そんな・・。」

困惑気味に座り込んでいた父の表情を見て確信した。

私は、父に向き直り掴み掛った。

「お、お父様!?まさか、貴方・・・。ハルのお父様を殺めたの?なんでそんな事が出来るの!?」

慧は、私の言葉に驚いて立ち尽くしていた。

不穏な空気を察した寛貴と咲は、急いで私を止める為に横断歩道を駆けて私の腕を抑えた。

「どうしたの美桜ちゃん!?大丈夫??落ち着いて・・!!」

ボブのサラりとした髪が私の頬に当たる。

心臓の音が煩くて、目の前には厳めしい父の顔しか入らない・・。

許せない・・。ハルを、兄を・・。

人を簡単に傷つけてきた父を、私はどうしても許せなかった。

「山科さん、一体何を言われたんだ・・!?」

なおも泣きながら暴れる私を、2人は全力で押さえつけていた。

「お前・・っ。女のくせに野蛮だぞ!!菫に似たのか?あいつも何度も私を拒んだからな・・。」

私はその瞬間ブチンと何かが切れた。

・・・バシン!!!

手が痛くて腫れ上がるほどの衝撃を父の頬に見舞った。

「あんたなんか、お父様じゃないわ!!バケモノ!!
どうしてよ!人の命を、人の気持ちを何だと思ってるの!?あんただけは許せない!!」

「お前・・。なんて娘だ・・。」

泣きながら、帰宅の途につく人が多くなった駅のロータリーで騒ぎ立てる娘に父も流石に憔悴していた。

駅の警察官が動き出し、こちらへと歩んでくる。

「・・・美桜。いいんだ。俺は大丈夫だ、さあ一緒に東京に帰ろう。」

私の瞳は暗く陰った。

慧は、一瞬それを察知して不安気に瞳は揺れた。

慧に差し出された手を、私は取れなかった。
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