41才の中学2年生

何だ、この亀仙人みたいなジジイは?

【だからさっきから言っておるだろう、お前の身体は中2に逆戻りしてると】

誰だ、さっきから!

しかも中2?何ワケの解らない事言ってやがんだ?

…でも確かに身体は小さくなってる。
オレは178㌢で68㌔、一応痩せ型で健康には気を使っている。

でも…何だこれは?

…いや、疲れてるんだ、ここんとこ残業も多く、帰りも遅いしな。
家に帰れば帰ったで、妻と娘が中学に進学する事で揉めてるし…

会社でも板挟み、家でも板挟み…あ"ぁ~オレはサンドイッチかっ!

今朝もその事で妻と娘がギャーギャーと朝っぱらから言い合ってるし…

妻「楓、今日は塾の日でしょ?終わったら真っ直ぐ帰って来なさい、もうすぐなんだから受験は」

平和な朝の食卓なのに、何も朝から塾、塾と言わなくていいものを…

楓「何度言ったらわかるの?私中学は近所の公立でいいって言ってるでしょ?」

…おい、お前ら。朝の飯ぐらいもう少し落ち着いて食う事出来ねえのかよ。

妻「何言ってるの!貴女は成績が良いんだから今のうちに有名の私立校に行った方がいいの、高校だって大学だってエスカレーター式に入れるんだから。
ねぇ、パパ?パパからも楓に受験するように言ってくれないかな?」

オレ「ん?あぁ、楓。お前は公立の中学に行きたがるのはどうしてなんだ?」

(めんどくせぇ、いいじゃねえかよ、中学なんて何処だって…)

楓「だって、皆は近くの公立の中学に入るんだよ?私だけ私立の中学に行ったら友達と離ればなれになっちゃうんだよ…私、そんなのイヤ!皆と一緒に同じ中学に行きたい…」

そりゃそうだ、勉強も大事だけど、友達はもっと大事だ。

オレ「なぁママ。楓もこう言ってるんだし、何も無理して私立の中学に入れる事ないんじゃないかな。今の楓は勉強も必要だけど、友達と一緒にいる事が一番楽しいんだ。少しは楓の事も考えてあげた方がいいんじゃないのかな」

妻「何言ってるの、パパは!いい、楓は今、一番重要な時なの!友達なんて中学に入ってからでも作れるでしょ?」

…あぁ~あ、これだよったく。

せっかくの飯が不味くなっちまうじゃねえかよ!
何だって妻はこうも楓の事になると受験、受験と言うのか…

何だか飯食う気失せた…

いいじゃねえか、好きな中学に行かせてやりゃ。

楓「パパ、私絶対に受験しないから!ママだって私と同じ頃、友達と離れて1人で電車に乗って通学したんでしょ?友達と離れるのイヤじゃなかったの?」

妻はエスカレーター式の大学付属中学から入って後はトントン拍子に大学に進んだからな、後々の事を考えれば楽っちゃ楽なんだが…

妻「ママは中学から大学の付属校に通ってたのよ。いい?貴女もママに似て頭が良いんだから言うとおりにしなさい、いいわね?」

…おい、オレに似たら頭悪いのかよ?
確かにオレは楓と同じ頃は勉強はまるっきりダメ、遊んでばっかだったけど、学校生活ってのは勉強ばっかじゃねえんだぞ、解ってんのか、おい?

楓「だ か ら!私は皆と一緒の中学に行くの!もうママは私の顔見るとすぐに勉強、勉強って…もういい、私そろそろ学校に行く!」

ガタッと立ち上がって楓はさっさと学校に向かった。

はぁ…飯ぐらいゆっくり食わせろよな…

妻「全く、あの子ったら。パパ!パパももうちょっと強く言ってくれないと!だからあの子は受験したがらないのよ!ねぇ、パパ、聞いてるの?」

オレ「いいじゃないか、それより朝飯ぐらいは静かに食べようよ。朝の始まりはまず朝食からと言うだろ?その事は帰ってからゆっくり話そう…あ、そろそろ行く時間だ!ママ、悪いけど車出して!遅刻しちゃう」

飯も満足に食えないのかよったく…

【グゥ~、ガウガウ!】

「どうしたシバオ?」

愛犬の柴犬、シバオがオレを見てすぐ吠える。

コイツは妻や楓には懐くんだが、どういうワケかオレには懐かない…

そういや楓が言ってたな。

楓「パパを見て吠えるっていうのは、パパの事を下だと思ってるからなんだって。パパ、シバオより下に見られてるじゃんw」

このアホ犬が!

前もオレのハムエッグ横からバクって食べたぐらいだからな。

オレ「こら、シバオ!それはパパのだ、離しなさい!」

【ガルルル~、ガブッ】

オレ「痛ぇ!コイツ噛みつきやがった!」

あん時は手から血が出たし、包帯巻いて会社に通ったっけ…

コイツを飼い始めて3年、マイホーム購入と同時に楓が犬が欲しい、というから近所のペットショップで生後2ヶ月の可愛い柴犬を見て、それからここに住むようになったんだよな…

あれから3年…
全くオレに懐く事がない!

人のツラ見りゃワンワン吠えてばっかだ…

妻「パパ、早く行くわよ」

そう言ってオレは妻の運転する車に乗って駅まで送ってもらった…


朝からそんなやり取りがあったから、疲れてるんだ、だから幻聴が聞こえるし、オレの身体もこうやって錯覚して見えるんだ…

はぁ、たまには疲れを癒しに温泉でも行きたいもんだ…

【こりゃ!さっきから聞こえるのは幻聴でもなんでもないわい!】

「のゎっ!」

目の前に現れたのは、ツルッパゲで白く長いヒゲを蓄えた老人で、山伏みたいな白い装束に先がモコモコっとしている木製の杖を携えていた!

「何だ、ジイサン、それで亀の甲羅背負ってグラサンかけたらドラゴンボールの亀仙人じゃねぇか」

っていうか、仙人みたいな格好だ…

【いかにも!ワシャ仙人じゃ!】

「…やっぱ疲れてるんだ…幻聴だけじゃなく、幻覚まで見えるとは…」

『間もなく3番線ホームより電車が参ります。危ないので白線の内側までお下がりください』

…あぁ、こんな日でも会社に通うのか、憂鬱だな。

【おい、聞いてるのか!】

何だこのジジイ、こんなラッシュアワー時にこんな変な格好しやがって!
これから会社に通ったり、学校に通う連中に紛れてこんな胡散臭い格好しやがって!

コスプレ好きのジジイがこんな満員電車に乗るな!ったく。

【こりゃ!さっきからワシの話を聞いてるのか、お主は!】

「ウルセー、このくそジジイ!こっちは今から仕事なんだ、邪魔すんじゃねえ!」

ザワザワザワザワ…

『またあの子1人で怒鳴ってるよ』

『勉強のやり過ぎで頭おかしくなったんじゃないのか?』

『ったく朝っぱらからウルセーガキだな』

…何だ?何で皆オレの事見るんだ?
このジジイの方が十分怪しい格好してんじゃねぇか!

【フォッフォッフォッフォ、周りにはワシの姿は見えんのだ】

「はぁ?」

何だかあぶねージジイだ、関わるのはよそう、さっさと電車に乗ってしまおう。

オレは電車が駅に停まりドアが開いたと同時に一目散に満員の中へと入っていった。

【待つのじゃ!】

ゲッ、乗り込んできやがった、このジジイ!

【ハンニャラホンニャラ、フニャチャカピー、ワイハー、ザギンにギロッポン!カーッ!】

ジジイは変な呪文というか、ワケの解らん事を口走り、オレに杖を向けた!

(…あれ?何だ目の前が…)

目に映る物全てがグニャ~っと歪んで見える!

「な、何だ何だ!目の前が段々暗くなってくる!助けてくれ~っ!」

…そこから先は全く覚えてない…


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