愛ある世界

ラインストーン

「と、いうわけで。今日は帰るな」
「ああ、じゃあな。真木綿さんも」
もう暗いホームに降り立った二人に向かって手を振ると電車はすぐに発進し、簡単に二人を置いて行った。

さて、一体二人はどんな関係なのかをすっかり聞き逃してしまった。ま、明日にでも聞けばいいか。

そう納得すると、何だか急に目蓋が重くなった。俺はただそれに従いゆっくりと目を閉じる。知らず知らずのうちに、力が入っていたのだろう。

本当は、割入ってでも聞くことはできた。

ここに来た理由は本当にそれだけなのか、二人はどんな関係なのか、どうしてまえもってアポイントをとっておかなかったのか。

でも、そんな事も線路を見つめる真木綿さんの目を見ていたら、言えなくなってしまう。全てを覆い隠して彼女はここに来た。何だか、そんな気がする。

まぁ、俺には関係のないことだけど。

気がつくとそこはもう地元の駅のホームで、ばっちりに目が開いた俺はかばんをかっさらい、電車を降りた。
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