職場恋愛
「噂をすれば」


ドアを開けた瞬間私に気付いた店長代理と家電の皆様。

え。何この空気。


國分さんいないし。

オープン15分前、こんな険悪なムードでやっていけるのでしょうか。


「おい」


呼ばれたのであろう私は恐る恐る返事をする。


「…はい?」


「取寄せリストいじったの、お前?」


取寄せリスト…?
って、何?

取寄せを聞いたことはあるけど、全部先輩に任せてたし、最近家電にいなかったんだけど…?


「………取寄せ…リスト…?」


バシンッ


聞き返した瞬間目の前に叩きつけられた分厚い紙製ファイル。


「取寄せた伝票とか客の個人情報が入ってる重要な書類だろ!!んなことも覚えてねーで部署異動してんじゃねーよ!馬鹿かぁ!!」


急に怒鳴られてびっくりする。


「リーダーもろくな仕事しねぇしなんなんだよ」


リーダーと言われて航の顔が浮かんだけれど、ざっと見て航はここにはいないらしかった。

「取寄せリストを管理するのはリーダーの仕事だろうが!!」


店長代理の陰で見えなかったけどそこには安井さんがいて、店長代理が大きな手で安井さんの頭を思いっきり押したのが見えた。

体勢を崩してしまった安井さんに詰め寄る店長代理はどこかのヤクザさんみたいですごく怖くて、安井さんのことは苦手だけど可哀想だと思えた。


航はどこにいるんだろう。
どうか、今は来ないで。
来たら同じことされると思うから。


「あぁ?すみませんの一言も言えねぇのか?なぁ」


「…………」


「聞いてんのかこのゴミ!!」


「いっ……。す、すみません、でした」


突き飛ばされた安井さんは机にぶつかってしまって痛そう。


「謝るときは、土下座」


いくらなんでもやりすぎなくらい安井さんを追い込んでいて、見ているだけでも心臓が嫌な音を立てる。


「…………」


「土、下、座」


本当にヤクザなんじゃないかと思う程に無慈悲な店長代理。

恐怖か、悔しさか、悲しみか、震える安井さんがゆっくりと床に手を着いた。


「何ちんたらしてんだ。こっちは貴重な時間をてめぇらに捧げてんだよ。早くしろ!」


あろうことか、店長代理は安井さんの肩を蹴って転ばせた。

苦痛に歪む安井さんの顔を見たら私が泣いてしまいそうになる。

どれほど屈辱的だろう。
たくさんの人に見られながら土下座を強いられるなんて。
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