俺様Dr.に愛されすぎて



「だって……真木先生、ニューヨークにいくんでしょう?出世にもつながるし、黒川さんだっているし……」



混乱しながらも伝える、それ以上の言葉を遮るように、真木先生は私を抱きしめた。

冷たい雨に降られてもまだ熱い、彼の体の熱が伝わる。



好き、なんて錯覚だったんじゃないの?

彼には相応しい場所があって、人がいて

なのにどうして、まだこうして抱きしめてくれるの?



「……ニューヨークは行かない」

「え?」

「俺はこっちに残って、身近な人々の力になりたい。……それ以上に、藤谷のそばにいたい」



驚き顔を上げると、彼は雨に濡れた頬をそっと撫で、優しく微笑む。



「フラれても、嫌われたとしても、諦めつかない。それくらい、藤谷しか見えないんだ。だから、藤谷自身に俺を選んでほしかった」



だから、真木先生は私を引き留めなかったの?

彼に押し負けたからとか、流されたとか、そうじゃなくて、私自身の意思で選ぶために。



なのに私は、何度も何度もその心を疑って、信じられなくて

『もう一度信じてみようと思います』

そう言って、はねのけた。



だけど彼は、それでも好きでいてくれている。

私だけを、見ている。

そんな真木先生にだから、私も素直に向き合いたい。



その気持ちを信じて、この気持ちを伝えたい。

決心するように、彼の服をぎゅっと握る。




< 155 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop