あなたのことは絶対に好きになれない!
「服」

「え?」

「濡れたとこ。大丈夫だった?」


急に問われてビックリした。
さっきオウスケくんに水を掛けられたことか。


「全然大丈夫でしたよ」

「なら良かった。悪い」


謝った……あのオウスケくんが。


だけど、彼が謝る必要なんて全然ない。
だって、助けてくれたんだから……。


すると彼は。

「本当は、水掛けるつもりまではなくて、間に割り込もうとしただけだった。でも、あの男がお前のこと〝久美〟って呼んでたからムカついて、反射的にあいつがお前に触れる手に水掛けてた」

「久美って呼んでたから……?」

「そう」


短く素っ気なくそう答えたオウスケくんだったけど、私の瞳の奥まで見るかのように、じっと見つめてきて、



「クミって呼んでいい男は、俺だけだ」


真面目な顔で、そう言ってきた。



なんて勝手なんだろう。
そんなことでムカついて、水掛けて……ただの自分勝手だ。


そう思うのに、


何で



(何で今、ちょっと嬉しくなったの……?)


昔は、オウスケくんが私のことを『クミ』って呼んでくるだけでも、今度は何をされるんだろうってビクビクしてた。
大人になって再会してからもそうだ。数年振りにクミって呼ばれて、反射的に逃げ出したくなった。

それなのに、今は……


気付いたら、〝オウスケくんだけが呼ぶ、特別な名前〟に、ドキドキしている……?
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