恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】


……そういう雰囲気に、なってもおかしくないってことだよね。


お風呂入って、待った方がいいの?
いやいや、いくらなんでもそんなスタンバイオッケーな状態おかしいでしょ。


とりあえず、居住まいを正して、深呼吸をした。


あとどれくらいで着くんだろうかわからないし、とりあえず普通でいいのではないかな。
そうだ、私はご飯まだなわけだし、まずは一緒にご飯を食べる。


落ち着け落ち着け、と自分に言い聞かせた。
そうだ、落ち着こう、それまで仕事のメモを見て、ちょっと余計なことは忘れよう。

再びメモに向き直り、ぱらぱらと一通り目を通していく。


糸井さんは黒髪短髪細目の眼鏡。
藤堂課長は、綺麗な男。


やっぱり、言葉では覚えていても顔は思い出せない、まあいつものことだけど。


西原さんは、黒髪肩より少し下、優しそうでシンプルな顔、で。
東屋さんは。


そこまで、文字で追った時だった。
ほわん、と華やいだ男の人の横顔が、記憶の中に見えた。



「……あれ?」



憶えてる。


自分でもびっくりして、つい他の人の顔まで記憶を辿ろうとしたけれど、やっぱりわからない。


あの横顔だけだ。
正面とかははっきりしないけど、西原さんと喋ってる時のあの酷く正直な横顔。
明日、多分、横顔だったら一発でわかるかも。


優しそうな空気感だけじゃなく、優しそうだった、という印象を覚えてるだけじゃなく。
彼女を見て、柔らかく、優しく綻んだ微笑みの横顔の輪郭が、記憶の中にはっきり浮かぶ。



彼の横顔は、私にはよっぽど劇的に印象深かったらしい。
人の顔を一度で思い出せたのは、初めてだった。


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