恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】


ががががががが、とミルミキサーでコーヒー豆を挽いている。
ふわ、と香り漂う給湯室で、私は自己嫌悪に陥っていた。


それは当然、今朝のことで、だ。
いや、今朝のことというより夕べの所業というべきか。


前日眠れなかったが故に、かなりの爆睡をかましていた模様。
目が覚めた時はまだ朝方で、普段ならぐっすり夢の中の時間に、目はぱっちり。


当然、東屋さんはまだ眠っていて、私のすぐ目の前で寝息を立てていた。


つぶさに思い出されたソファでの濃厚な一時と、ぶつんと途中で途切れた記憶。
寝たのだ、間違いなく、ぐっすり爆睡しちゃったのだ。


あんな誘惑をしておいて。


そう気が付くと、恥ずかしいやら申し訳ないやらで、とにかく出勤の準備に一度家にも帰らなければと、私はベッドからそろりと逃げ出した。


置手紙だけして始発で家に帰ったが、やっぱり何かそわそわして落ち着かず、結局いつもよりもずっと早い時間に出勤してきてしまっている。
いつも早い西原さんだって、まだもう少し後だろう。


と、思っていたら。
廊下で、確かに足音がした。


西原さんの足音にしたら、少し荒々しい。
こんな早くに誰か出勤してきたのだろうかと、不思議に思っている間に、がらりと給湯室の引き戸が開いた。


「……いた」


考えるまもなく、入ってきたのは不機嫌な顔の東屋さんだった。


目が合った途端、私は夕べのことが思い出されてとてもじゃないけどそのまま合わせてはいられなくて慌てて俯く。
だけどそんな私に、彼はお構いなしだった。


「何一人で帰ってんの、しかも携帯は? 全然通じないし」

「あ、けけ携帯、充電切れちゃって」


ずかずかずか、と真正面すぐ目の前まで詰め寄られた。
私の視線はネクタイまで降りたまま、それでも近すぎる距離に体温まで思い出してしまいそうで、かあと身体が熱くなる。
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