恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】


とぷ、と少し大きな波が来て水面が跳ね、浮き輪にしがみつく紗世の前髪を濡らした。
目に入らないように手で髪を避けてやっていると、ほわんとそれは幸せそうに笑う。


だけど、ふいにその表情に一瞬、曇りが差した。
ほんとに一瞬で、次には笑顔に戻ったのだが、取り繕うように明るい声で言った。


「あ、東屋さん、無理してないですか」

「は? 何が」

「いえ……東屋さんの塩対応に慣れてたもので……でも付き合ってからずっと、すごく優しいし、なんか」


塩対応って。
なんじゃそりゃ。



「冷たくしてほしい?」

「いえ! 決してそのような!」


とりわけ、紗世に対し甘くなってる自覚はあるが、仕事の時はいつもと変わらないようにしていると思うし、プライベートで彼女に優しくするのはごく当たり前のことだと思うのだが。


「……優しくしたいから、してるだけだけど」


そう告げると、彼女は言葉に困ったのか言ったことを後悔したのか、笑顔のまま固まった。

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