甘党霊能力者
中から真っ白なクリームがたっぷり塗られたショートケーキだ。
「これ、駅前の……」
ふと漏らした声に、女は目を見開く。
「あなたの行きつけのお店?」
「……えっと、違います」
首をふる八代に女はふうん、と言った。
 テーブルに珈琲とショートケーキを出し、「座って?」と女は椅子を引く。どうも、と軽く会釈をして席につく。
「私は木戸」
女は木戸琴音と名乗った。
「冴木八代です」
軽く会釈をしながらも視線は琴音に向けていた。
 どんな変わり者かと思ったが、可愛らしい外見以外はいたって普通だ。話していても天然で片付く程度のボケかただ。学校で例えるとしたら、クラスの中心人物で、間違いなく男子に人気があるタイプの人間だった。
「えっと、ずっと気になってたこと言ってもいい?」
不意に真剣な表情で声を低めた。八代は怪訝な顔つきで、
「……なんでしょう」
「今思い出したんだけど、あなた、このケーキを買ったところの店員さんでしょ」
琴音の言葉になにも言わず、静かに珈琲を口に含んだ。
「……くびに、なりましたよ」
八代の言葉に、琴音は目を見開いた。
「……女を振ったら、店を追い出されました。その女、別に彼女でも何でもないのに。」
忌々しげに八代は目を細めた。
 ふっと笑う気配がする。
「……なんですか」
不機嫌そうに言うと、ごめんごめんと軽くいなし、
「だって、それはあなたがいけないもの」
言われている意味が、八代に理解できなかった。なぜ自分が悪いのか。
「あなたが振った女の人って、ひょっとしてちょっと可愛い系の髪が栗色で自分に自信がある人じゃなかった?」
くつくつと笑いながら砂糖を3つ入れた珈琲(もはやカフェオレ)を口に含んだ。
「……そうですけど。それが何か」
「あなたねぇ、店のオーナーの娘さんくらい覚えておきなさいよ」
その言葉に、八代は凍りつくしかなかった。……あれが、おとなしいオーナーの娘さん……。
 八代の記憶には、濃い化粧につんと鼻をつく香水、甘ったるい口調に気が強そうな女が浮かぶ。ーー八代の苦手なタイプだった。
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