はじめて知った世界の色は


そしてその日の昼休み。

由実は委員会の仕事があるからと図書室に向かって、私は理科室の前にいる。

東側の一番奥だから人はいないし、廊下も物音ひとつしない。その扉をゆっくりと開けると理科室独特の匂いがした。

私は再びゆっくりと扉を閉めて、並べられているテーブルをひとつひとつ確認していく。

すると窓際のテーブルの横から足が見えて顔を覗くと、そこには寄りかかりながら目を瞑っている緑斗がいた。


緑斗はよくこの理科室で昼寝をしている。

授業中は私に気を遣って教室にはいないし、その他の時間も由実といるからなかなか話すことはできない。

それが少し寂しく感じるけど家ではいつもどおりだし、緑斗と過ごす時間が減ったわけじゃない。


私は寝ている緑斗の顔の前でわざと手を振ってみたけど、緑斗は全然起きる気配はない。


……それにしても長いまつ毛だな。

こんなにまじまじと寝顔を見たのは初めてだし、日に浴びて茶色くなってる髪色とか首筋にある小さいホクロとか、なんだかずっと見ていたくなる。

そしてやっぱり心に浮かぶのは〝触ってみたい〟って気持ち。


髪の毛はサラサラだろうし、平熱は低そうだけど絶対に私よりは熱い体温。幽霊は冷たいものって感覚はなくて、緑斗はやっぱりなにを連想しても温かいイメージしかない。
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