僕が小説を書くように
暗転
 冬に差しかかったころ、僕は行きつけの店のひとつでひとり酒をのんでいた。
 大人の男は、こうして孤独に黄昏れたいときもあるのだ。

 いろいろな疲労が、渦を巻いて頭の中でもやをつくっていた。
 彼女と会うと、ひとときそれを消し去ることはできる。

 あー、今週の原稿の締め切り、どうしよう……、
 ということにもっぱら苦しめられているのだけれども。

 彼女はなんだか用事があるといって、今日の僕の誘いを断った。
 だからって別に僕はふられ気分で、やけ酒をかっくらっているわけではない。本当だ。

 それにしても、自分に惚れている女の顔を見るのは、いいもんだな……。

 じわあっと広がる幸せに浸っていると、
「先生」
 と背後で男の声がした。


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