ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「なにはともあれ、ご婚約発表の日もそろそろ決めていきたいところですね。私は今の商談がまとまってからがベストかと思います。……それと例の件が無事に終えてからが良いかと」


「……あぁ、わかっている」

「その日までには専務のお気持ちが確かなものになることを、願っております」

池田さんは最後にそう言うと、空になった弁当箱を片づけ始めた。

恋愛感情がなくても、すみれと結婚したいと思っていたけれど、今はそう思わない。

ちゃんとすみれのこと好きになってから結婚したいと思うようになった。

それは臆病な彼女が、真っ直ぐ自分の気持ちを伝えてくれたからかもしれない。

あの日の彼女の告白は、今でも鮮明に覚えていて思い出すと、なぜか胸が苦しくなる。

〝痛い〟意味での苦しいではなく、〝嬉しい〟意味での苦しい。

毎日こうやって池田さんに相談に乗ってもらっていると、どうして胸が苦しくなるのか、答えがわかった気がする。
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