ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「もういいだろ? すみれが泣いているの、気づいていないのか?」

謙信くんに向かって放たれた低い声。それは私の身体を抱き寄せている一弥くんのものだった。

「今日のところは帰ってくれ。……あとは家族の問題だから。他人のあんたに居てほしくない」

冷たく言うと、一弥くんは私の肩を抱き歩き出した。

「謙信くっ……」

「振り返るな、すみれ」

思わず振り返ろうとした私の肩を強く抱き、一弥くんは厳しい口調で言った。

「自分で言ったんだろ? あいつに婚約解消してくれって。……だったら振り返るな」

そうだ、私……自分で言ったんだ。

背後から感じる視線。けれど私を引き留める声は聞こえてこない。


これでいいんだよね? そもそも最初から間違っていた。私が一方的に好きなだけの関係のまま、結婚しようとしていたのが。

謙信くんにも好きになってもらわないと、なんの意味もなかったのに。

再び零れ落ちる涙。

一弥くんはなにも言わず、私の肩を抱いたままゆっくりと手術室前へ戻っていった。
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