クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
02. お父さん

畳敷きの事務室の中。

出されたお茶を前に、舌打ち男、改め律己くんのお父さんもさすがに所在なさそうだ。

律己くんは大きなリュックサックを抱いて、お父さんの隣におとなしく座っている。甘えるでも、早く帰りたいとぐずるわけでもなく、ただじっと。

園児は全員、職員もあらかた帰ってしまった後なので、園内はしんと静かだ。


「先程ご連絡した件です。承認はまだ下りませんか? こちらはお待たせしているんです、ええ」


奥から聞こえてくる園長の電話の声が、熱を帯びてきた。

保護者を放置しておくわけにもいかないので、私も自分のマグカップにお茶をいれ、律己くんのお父さんの正面に座った。

なんとも居心地の悪い空気。


「あの、なんか…すみません、規則とか知らなくて」


手持無沙汰そうにあぐらをかいていた彼が、口を開いた。こちらをうかがうような表情に、たぶん本気で申し訳ないと思っているのが伝わってくる。


「こちらこそお待たせしてすみません。この時間だと本部も閉まっていて、承認者が捕まらないみたいで」

「本部とか、あるんですね」


彼が感心したような声を出した。

ある。この保育園は県内に系列園をいくつも持つ会社が統括していて、従業員もそこから派遣されてくる。データはすべて本部で管理され、送り迎えをする保護者として登録されている相手にでないと、子供を引き渡すことはできない。

驚いたことに律己くんのお父さんは、登録されていなかったのだ。


「おばあちゃんは、大丈夫ですか?」

「腰をやっちゃったみたいで。でも声は元気でした」

「そうですか」


お元気ならよかった。

だけど腰を痛めたなら当分、送り迎えや家事は無理だろう。このお父さんだけで、律己くんの面倒を見られるんだろうか。
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