クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「今日は、私とごはん食べるんだよ」


彼は目を丸くし、今聞いたことが真実であるのを確認するみたいに、今度は有馬さんを見上げた。有馬さんがうなずきを返してやる。


「先生の言うこと聞いて、いい子にしてろよ」

「焼きそば作ってきたよ。律己くん、好きでしょ」

「ほかの子には内緒な。みんながうらやましくなっちゃったら、かわいそうだろ」


ぽかんとしていた律己くんは、はっと事の深刻さに気づいたように、まじめな顔をして深々とうなずいた。

玄関を入った瞬間、「あ」と有馬さんが小さく声をあげた。携帯を取り出し、画面を確認してから私を見る。

安斉さんが来たのだ。

私は律己くんの手を取って、有馬さんにうなずいてみせた。


「あとは任せてください」

「感謝します。律己、ちゃんと食って、早めに寝るんだぞ」


事情なんてさっぱりわからないだろうに、律己くんは問いただすこともせず、入ったばかりの玄関を出ていく父親に手を振る。たださすがに、不思議そうに首をかしげてはいるけれど。

閉まりかけるドアの向こうから微笑み返す有馬さんが、神経を張り詰めさせているのが伝わってきて、私はぎゅっと律己くんの手を握った。

誰かが傷つく結果にならないといい。

だけど、そんなの無理な願いだってことも、わかっていた。




「あれ?」


もしお鍋があれば、作ってきたお味噌汁を温めようと、あまり期待せずに調理台の下を開けたら、予想を裏切って、そこは充実していた。

お姉さんのものかとも思ったんだけど、使われている気配がある。


「律己くん、もしかして最近お父さん、お料理する?」


ダイニングのテーブルで食事を待っている律己くんが、こくんとうなずいた。

するんだ!


「なに作ってくれるの?」

「お味噌汁」

「だけ?」

「時々、チャーハン」
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