クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「急に熱が上がる可能性もあるので…今日は家で様子を見てあげていただけませんか」


律己は敏感にお父さんの気分を感じ取って、小さくなっていた。それを察したのか、有馬さんはこらえてくれた。


「…まあ、そういう決まりなら仕方ないですね」

「あの、お父さんだけで、大丈夫ですか?」


登園簿に乱暴に二重線を引いていた有馬さんが、目を丸くする。


「は?」


あっ、しまった。思ったことがつい口から出てしまった。

でも…。

私は周りを見回し、ほかの先生に聞かれないよう声をひそめた。


「あの、困ったら私にご連絡ください、なにかお手伝いできるかもしれません」

「でも先生、仕事でしょ」

「そうですが、この距離ですし」


指で、上と下を指してみせる。

具合が悪いと、子供の気持ちも荒れたりする。慣れていない有馬さんには、荷が重いかもしれない。

有馬さんが、ふっと表情を緩めた。


「じゃあ、なにかあったら頼らせてもらいます」

「ぜひ。律己くん、お大事にね」


手を振る私に、律己くんが元気に振り返してくれる。

有馬さんがそれに対して、大人げなく文句を言った。


「お前、いつも通り朝飯食ってたじゃねえか、紛らわしいことすんなよ」


健気に眉尻を下げ、申し訳なさそうにする律己くんの頭を、小突くようにかき回しながら出ていく。

ふたりの関係は少しずつながら、近づいているように見えた。

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