好きになっちゃいました!
高校デビュー

確かに俺は、端から見れば親に捨てられて孤児院で育った可哀想なやつかもしれない。

施設での暮らしも不自由なものではなかったけど、ほしいものなんて買えなかった、可哀想なやつに見えるかもしれない。

でも結果的な、本当捨ててくれてありがとうって思ってる。

孤児院から俺を引きとってくれた先は小中校一貫校の都内随一の名門校の理事長のスッゲー金持ちの家。
金も名誉も申し分なし、毎日贅沢し放題だし学校行けば理事長の子供ってだけでちょっとの校則違反に先公は何も言ってこないし、理事長の子供ってだけで友達もわらわら集まってくる。

本当、今となっては俺のこと捨ててくれてありがとうって実の親には思ってるよ。

本当にね。



■高校デビュー■

桜が満開の季節、ここ私立桜木学園の高等部の1学期がはじまった。
私立桜木男子学園は小中校一貫の都内随一の名門男子校
芸能人や企業、角界での子息が通ういわばエリート校である。

生徒たちが着ている学園の制服も深いワインレッドのスーツに緑色ネクタイ
胸には金の刺繍で校章が施され、スラックスは黒

1着20万円はするという。


そんな制服を見にまとった生徒たちが校門をくぐれば赤レンガづくりのズラーッと横に広がる校舎
どこか一世紀前のヨーロッパに飛ばされた感覚になる。

敷地が順丈ではないくらい広く校舎だけではなく総合体育館、グラウンド、
植物園、飼育小屋、噴水のあるカフェテラス、和洋中の3つ星シェフの集まるもはやレストランというべき食堂、オペラハウスにシアター、巨大なプールにシャワーやサウナ、トレーニングジム等々
この学園の敷地内で全てが済んでしまう。

そんなこの学園の屋上は立ち入り禁止になっている。そんな立ち入り禁止のはずの屋上に出るドアの鍵が空いてる事に気づいた教職員が『コラ!!ここは立ち入り禁止だぞ‼』とドアを開けると数人の生徒がいてそしてその男がいた。

『あ?』

『が、、、学(がく)様…!』

教職員に学様と呼ばれた男はワインレッドの学園指定の制服の上着を着ておらず、
ワイシャツのボタンを上から3つあけて中には黄色の柄物のTシャツと首にはシルバーのネックレス、ワイシャツは袖を捲り左手首にピンクのミサンガ。
ネクタイやベルト何てものは締めておらず丸い赤いピアスを着けてスラックスは俗に腰パンという履き方をしている。

そして何より2メートル近い巨体と深い眉間のシワ、まるで人を2、3人殺めたような凶悪な面構えの髪を金髪に染めカチューシャでオールバックにした男子生徒。

教職員はそんな男子生徒目の前になぜかビクビクして冷や汗をだらだら流し取り乱した様子。

『あ?』

学様と呼ばれた男はポケットに手をいれてグイッと教職員を見下ろし詰め寄った。

『め、滅相もございません学様‼ど、どうぞごゆっくりー‼』

そういうと教職員はバーっと階段をかけ下りて逃げるようにその場から去っていった。

『や、やっぱり学様スゲーや‼』

『さ、さすが学様、理事長の子息‼』

そう、この金髪の不良男こそ名門桜木学園の総理事長、桜木龍治の一人息子
桜木学(さくらぎがく)高等部1年生である。
学はポケットから少しくしゃっとなったガムを取り出す。

『うるせーよ』

学はガムを噛もうとしたがどうやら中身が入ってなかったようで捨ててグシャっとそのゴミを踏んでから学は通学カバンを持って階段を下りて校門に向かった。

学が校門を出ようとしたときだ。


『がっくん、まだ朝のホームルームすらはじまって無いですよ』

学は『やばい』という顔をする。唯一、理事長の息子という肩書きが通じない人物。

『がっくん、いくら理事長の息子だからといってこれ以上困らせるようなことしたらさすがに退学になっちゃいますよ?』

なかば母親のような口調の用務員の人、彼は七緒真琴。小豆色の上下のジャージを着て庭箒をもった茶髪の長い髪をポニーテールにして結んだ男。
漂う母性感、だが男である。この男こそ理事長、学の父親の

恋人、みたいな。

学にとって母親のような人なのだ。


男だが。


『七緒さん、見逃してくれない?朝からむしゃくしゃて、学校にいれる気分じねーんだよ。旅に、出たいんだ』

あたかもどこかの映画のワンシーンみたいな学、七緒にダメもとでいってみる。

『がっくんそうですか、、、というと思いました?さあ教室に戻りますよ。』

七緒にはもちろん効かず、学の首根っこ掴みズルズルと教室に引きずって連れていくのであった。



『七緒さんにだけは敵わねーんだよな…』


1年生のクラスはAからFに組分けされている。

組分け基準は成績順位や家庭に角界の重役を担う人のいる子息だったりする。学はそんななかのトップクラスA組の人間だ。

学はあんな素行ではあるがやらせれば成績も優秀スポーツも万能。
家柄も先程の説明のとおりスーパーエリート学園の理事長の息子。
A組に所属するには申し分ない。

学の席は一番後ろの窓側。学はヘッドホンをつけた。
ヘッドホンを着けていても話し声が聞こえるように音量は低め、聞いてる曲は今流行りの曲とかではなく、スタンダードではない海外アーティストのロックやメタルよりの曲をランダムで流す。そして机に足をのせて窓から見える空をボーッと見上げていれば気づけば担任が入ってきて朝のホームルームがはじまっていた。

『今日はこのクラスに新しい仲間を紹介する。桜木零(さくらぎれい)君だ。零君、入ってきなさい。』

その担任の言葉で教室の扉が開いてその転校生が入ってきた。
学は特に興味はなかったが扉が開けば転校生が入ってきた教壇に視線だけ向かせた。

そして転校生が入ってきた瞬間だ。ゴクリと生唾を飲み込み男子生徒達はその少年に視線が釘付けになった。

『6歳のから最近までアメリカに住んでいたそうだ。まだこちらに戻ってきて間もないから、分からない事ばかりだと思うから皆、困ったことがあったら色々助けてあげるように。』

その転校生は、ミントグリーンの肩先にかかる程度に長い髪と同じミントグリーンの潤んだような大きな瞳をおおう長い睫毛をしていた。
陶器のように白く透き通った肌、ピンク色の唇。小柄な華奢な女のような体。
男子校に転校してきたわけだし、ここの指定の男子制服を着ているのだから男には違い無いのだろうけど。

絶世の美少年。

いや、絶世の美少女。

いや、絶世の中性美。

そんじょそこらのモデルやタレントなんかより断然美しい。
ビスクドールのような完璧な美少年が現れたのだ。
その美しさに教室の全員生唾を飲み込み釘付けになった。

『はじめまして、桜木零です。よろしくお願いします。』

けして大きな声ではなかったが口を開けば声変わりした低い声の立派な男だ。
それでもその美しさに零の回りにヒラヒラと舞う花弁やふわふわの天使の羽の幻覚を見る生徒までいたのであった。

学は他の男子生徒とは違って釘付けや鷲掴みといった気持ちにはならなかったが
同じ名字、本当に男?くらいのそのくらいの薄い関心しかなかった。

学は大きなアクビを一つするとヘッドホンのボリュームをあげようとしたときだ。


『あの~申し訳ありません学様……』

ーまた学様かよ、理事長の息子だからといって血は繋がってないのになー

内心学はそうおもった。

『あ?』

学はヘッドホンを外し肩にかけたまま担任教師を睨み付けた。

『ヒイッッ‼申し訳ありません‼その、理事長からのご命令でして、その、学様の今お座りになってる席をこの零君に譲って、学様をこの一番前の真ん事中に用意した席に座らせるようにとの事で……』

『んあ?』

学がそういうと教室のなかは一気に凍りつく。
やばいぞあの先生消されちまう
なんたって今『あ?』じゃなくて『んあ?』だったんだぜ『んあ?』だぜ『んあ‼』
学様怒らせると戸籍まで消されちまうって話だぜ

ヒソヒソと生徒達の話し声が響く。

『申し訳ありません‼申し訳ありません学様‼どうか、どうか、お許しくださいいいいい‼』

担任教師は土下座して何回も頭を下げた。

ーまだ何も言ってねーじゃん……ー

学はため息をついてヘッドホンをつけ直そうとしたときだ。
カツカツカツカツと軽快な足音が学に近づいたと思ったらピタリと学の前に止まり、次の瞬間ヘッドホンをバッととられる。

あまりの一瞬の出来事に学は唖然、回りは騒然とした。

『桜木学、どうやら桜木龍治から説明受けてないみたいだな。』

ヘッドホンを取り上げたのはさっき転校してきたばっかりの絶世の美少女、いや、美少年の零。零がなぜか桜木龍治、この学園の理事長であり自分の父親も名前をいってきた。

『君の父親でありこの学園の総理事長、桜木龍治と僕は養子縁組みをした。この僕もまた君と同じ桜木龍治の息子となったわけだ。残りの高校生活で成績等で競いあい、どちらがよりこの学園の後継者にふさわしいか桜木龍治自身が見定める。改めて、僕は君のライバルであり新しい弟だよ。お、に、い、さ、ん。』


教室内に一瞬の沈黙。そしてまるで爆発が起きたような衝撃が広がった。


『学様の弟だってーーーーーー‼??‼??』


















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