マドンナリリーの花言葉

ディルクが不在の間、屋敷を管理するのはローゼの役目だ。

幸いディルクが雇い入れた執事のヨーゼフは貴族屋敷の管理に慣れていて、提案という形で、ローゼに何をすべきかを教えてくれる。常に控えめだけれど、頑とした意思の持ち主なので、人に流されるということはない。
ローゼは彼を尊敬し、都度都度お礼を言ったのだが、彼からは冷たいとも思える反応が返ってきた。


『ローゼ様は、私に頭など下げなくてもいいのですよ』

『でも』

『でも……ではありません。特にディルク様がいない間はあなたが屋敷の主人なんです。もっと堂々と毅然とした態度でいてください』


それは生まれながらの貴族なら、きっと難しいことではないのだろう。

しかし、ローゼは貴族の血を引いているとはいえ、平民家庭の育ちだ。字や計算など、かつて侍女をしていた母が教えてくれたから、学はそれなりにあるけれど、いわゆる上流階級の態度はどうしても取れない。


「早く、ディルクが帰ってきたらいいのに」


ディルクがいると、ローゼは素のままの自分でいていいと思える。

有能なディルクは、外の仕事をしながらも、家にいるときは雑事から来客への応対までしっかりとこなす。屋敷内の人選もディルクがしてくれた。ヨーゼフを筆頭に、コックもメイドも侍女もその道に慣れた年配の人間を揃え、ローゼが困らないようにと色々手を尽くしてくれたのだ。

ただ、唯一求められているであろう“女主人としての威厳”をどうしても持つことができず、ヨーゼフにたしなめられて落ち込んでいるだけなのだ。

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