マドンナリリーの花言葉

「奥様。私は使用人です」

「使用人でも同じ屋敷に暮らすんだもの。家族みたいなものよ。なんでも困ったら言ってちょうだい。私に言いづらいならメラニーに言えばいいわ。あなたは綺麗だから、じきに困りごとも出てくるわよ、ね」


クスリと笑いながら側近に目を向ける奥方の瞳には悪戯の色がのっている。
彼女の目配せの意味は分からず、それよりも奥方の美しい顔を間近に見たことに興奮して、ローゼは頬を染めた。


「そんな。奥様のほうがずっとお綺麗です。私の憧れなんです。こんな綺麗な方のいらっしゃるお屋敷で勤められるなんて光栄です!」


興奮しながらなんとか本心を伝え、顔を上げる。
素直に喜んでいるエミーリアの脇で、ブラウンの髪の男性が神妙な顔をしたまま、食い入るようにこちらを見ていた。

メイド長であるナターリエに教えてもらったことを思い出す。
クレムラート伯爵邸の当主フリード様は金髪碧眼の美丈夫、そしていつも付き従っているのは、フリード様の長年の側近であるディルク=ドーレ様。


(この方がディルク様。……なんて格好いいんだろう)


顔が赤くなるのが止められなくて、ローゼは目を伏せる。それでもなお、ディルクからの視線を感じた。

うぬぼれるわけではないが、ローゼは見た目がいい。ゆえに男性から熱のこもった視線で見つめられるのはままあることだ。しかし、ローゼ自身が男性にときめきを感じたことはなかった。

しかし、今回は違う。
彼に見つめられていると思っただけで手汗が出てきて喉が詰まる。
視線を注がれているのが嬉しいのに居心地が悪くなる。こんな気持ちは初めてだった。
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