マドンナリリーの花言葉


 ローゼが目を覚ましたのは、まだ夜が明けきる前の、空が白み始めたころだ。
全身が汗だくで、不快に思い目が明いたのだが、クッションのいいそこが、自分のベッドではないことを思い出し、慌てて起き上がる。

 昨晩は朦朧としていたのでよく見ていなかったが、ローゼがジルケと一緒に使っている部屋と同じサイズの部屋をディルクはひとりで使っているようだ。壁際に寄ったベッドには、ちょうど窓からの日が差し込む。

一番目につくのは反対側の壁に並んでいるびっしりと本が詰められた本棚だ。その近くに物書き用の机があり、暖炉の傍には安楽椅子が置いてある。その、安楽椅子に、ディルクが目を閉じて眠っていた。


「ディルク様」


ドロシアはせめて彼に毛布でも……と立ちあがる。しかし、ドロシアが床に足をついた振動を感じてか、ディルクはすぐに目を開けてしまった。


「やあ。調子はどうだ? ローゼ」

「ディルク様。……すみません。お休みになれなかったんじゃないですか?」

「ベッドを貸すと言ったのは俺だ。昨日より良さそうだな。くしゃみも少なくなった」

「はい。お陰様で」


ディルクのベッドはクッションがよくとても寝心地が良かった。しっかり汗をかいたことで熱も引いていったようだ。


「水を飲むといい。……それと、早く着替えたほうがいいだろうな」


ディルクは部屋の端に置いてあったピッチャーからグラスに水を入れ、ローゼに手渡すとすぐに目をそらした。

不思議に思いながらグラスを受け取り水を飲んでひと息ついて、ようやくローゼはディルクが目をそらしたわけを知る。夜着が汗で張り付いているのだ。

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