are you there?
「何これ?」


「おまじない。」


「あんたが、夜1人で寝るの怖いって言ってたとき、
幼稚園くらいの頃、俺、英語教室行ってたから、これ言われたら、いつでもどこでも返事するっていう。」




「覚えてない、そんなの。」



「じゃあ、あれは? 
手袋さ、かたっぽずつ交換してさ、名前どっちか分かんないようにして、誘拐犯がきたとき困らせちゃおとかってしてたやつとか。」



「してないよ、そんなこと。」



「したよ…


じゃあって言おうとして、小田原は口をつぐんだ。


そして、また私が最初、屋上に来たとき見た姿と同じように、地面に寝そべった。



「空ってさ、全部繋がってるって信じらんないよな。」


「じゃあ、信じなければいい。」


信じたいのよ、俺は。そう言って小田原は目を閉じた。




「信じないだろうけど、どこにいても、返事しようって思ってたんだよ、俺。

そこにいますかってお前に言われたら、どこにいても1番に、泣き虫のお前が泣かないように返事しようって、あの頃。」


何も言わないで、立ちすくんだ私の横で小田原は喋り続けた。



「海外転勤、親父の。
家族全員で、ついて行くことになった。」




「そっか。」



「ほんとに覚えてない?」


小田原が、小さい頃泣くのを我慢するときにする顔を今、見てしまった。




何を?そうとぼける前に、目から水滴が落ちそうになって、慌てて私も、地面に寝転んだ。  





「芽依はさ、かわいいでしょ、」


返事をしない小田原に念をおす。




「かわいいでしょ。」


「…うん。」


「かわいい上に優しいから、こっちが心配になるくらい。芽依にはいっぱい救われた。」


でも、



「恩返ししたくても、芽依はさせてくれない。頼ってほしくても、芽依は頼ってくれない。その上、芽依は自分に自信がない、

小田原だけなんだよ。小田原だけが芽依の頼れる場所になれるんだよ。」




小田原は小さく笑った。


「分かったよ、芽依のとこ行くよ。」

そう言って、起き上がって、服に付いた埃を払った。


「じゃあ、また

ドアの近くで、手をあげながら、小田原が言った。



「俺の彼女は芽依だし、大切なのも、1番なのも芽依だけど、ホントはお前が泣き虫なのも、怖がりなのも、俺知ってるから、特別におまじないの有効期限は無期限にしてやるよ。」


10メートルにもみたないその距離が永遠に見えた。



「いらないよ、そんなの。」


「もらえるもんは、もらっとけよ。」


そう言って、小田原が笑った。



「じゃあ、一回だけもらう。そのおまじない。」


おう、ただ一言そう言って、扉が閉まった。








ガチャン、その一音が私の心を冷たくさせた。





< 3 / 5 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop