イジワル上司の甘い毒牙
「あれ、まだ誰かいる?」
出入り口の方から扉が開けられる音と、聞き覚えのある男の人の声が聞こえて、私は反射的にそちらを向く。
いつものスーツの上に薄手のコートを羽織って、今から帰るであろう日高さんが、目を見開いて、遠くから私を見ていた。
「日高さん、お疲れさまです」
「うん。お疲れさま。ずっと残ってたの?」
日高さんが長い足で数歩こちらに歩いてきて、すぐに私の近くにきた。背後に立つ彼を見上げると、日高さんは不思議そうに首を捻っている。
「は、はい。すみません……」
「いや、残業は別にいいんだけど……社内メール、見なかったの?」
うちの会社は自称ホワイト企業なので、基本的に残業を嫌う。だから、それに対して首を捻られているのかと思ったけど……どうやら違うらしい。