繋がる〜月の石の奇跡〜
四章
次の日、えみは一限に間に合う時間に家を出た。

いつもの階段を降りて学校へ向かっていると、えみの横を誰かが通り過ぎる。

「おはよ。」
えみの方を見ることなる、ボソッと言って、そのまま通り過ぎていく。

その香りと声で、その人が井上であることが分かった。

そのときえみは、いつも横を通り過ぎる人物が井上であったことに気づいた。

いつもの井上は、すぐに見えなくなるほど早いスピードで歩いているのに、今日はその姿がえみの目の前からすぐに消えることはなかった。

えみが小走りで向かえば追いつけそうな速さで歩く。

そんな井上の後ろ姿は、えみに何か言いたげな背中をしている。

えみが井上に近づこうと、走り出そうと大きく踏み出した瞬間、
「えみちゃん。」
後ろから呼び止められる声がした。

えみが後ろを振り返ると、そこには大谷の姿があった。

大谷は、いつもと変わらず明るく元気な様子である。

えみは、大谷の方へ体を向け、
「おはようございます。」
深くお辞儀をした。

そして、昨夜のお礼を再度した。

いつもよりも丁寧に挨拶をするえみを見て、

「そんなにかしこまらないでよ。」
えみの肩に手を乗せながら笑顔で大谷が言った。

大谷とえみがそんな会話をしていると、井上の姿はえみから見えなくなっていた。

「えみちゃん、最近帰り遅くなることよくあるの?」
歩きながら大谷が尋ねる。

「テスト勉強やレポートありますけど、なるべく遅くならないように帰るようにします。昨日のこともあるし。」
昨夜の反省をしながらえみが言った。

すると大谷はカバンから手帳とペンを取り出し何かを書き始める。

「はいこれ。」
手帳の端をぺりっと破り、えみの方へ差し出す。

「俺のケータイの番号とメアドね。」
少し照れるようにして大谷が言った。

「もしまた遅くなりそうなことがあったら、いつでも連絡して。すぐに飛んでいくからさ。」
紙切れを渡し終えた大谷は、えみよりも少し先を歩きながら言った。

えみは、貰った紙切れをじっと見つめる。

戸惑っているえみを見て、大谷がえみの方へ振り返り
「あ、もちろん、それ以外の連絡も大歓迎ね。」
少しおちゃらけて言った。

えみは、大谷の優しい笑顔に心が癒されているのを感じていた。
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