繋がる〜月の石の奇跡〜

「えみちゃん、今日は急にごめんね。」
車が走り出して少し経った頃、大谷が話し始めた。

「いえ。大丈夫ですよ。それよりどこに行くんですか?」

えみが聞き返す。

「ああ。言ってなかったね。合宿の買い出しに付き合って欲しいんだ。」

「買い出しですか。」

えみは納得したように言う。

「本当はえみちゃんと二人で行きたかったんだけど、井上が付いて来ちゃってさ。」

再び大谷が冗談ぽく言う。

「いやいや、俺は元々買い出し班だったじゃないですか。」

井上が反論した。

『やっぱり今日の井上くんは、いつもより明るい。』

そしてえみは、ある日の井上を思い出す。

前にトンカツを一緒に食べようとしたとき、井上は今日みたいに明るくて優しい感じの話し方だった。

『きっと仲良くなったら、いつもこんな感じで話してくれるんだろうなぁ。』

井上と大谷の会話を聞きながら、そんなことを考える。

「それでさ、えみちゃん合宿で何作ってくれる?」

唐突に大谷が聞いてくる。

「へ?」

質問の意味がよく分からないえみは、気の抜けた声を出した。

「合宿のときの朝飯と昼飯作って欲しいんだよねー。」

「そんなの聞いてませんけど。」

少し戸惑った口調でえみが言う。

「ごめん、ごめん。えみちゃん一人ってわけじゃなくて、あずさちゃんと、あと大倉にも手伝ってもらうつもりでいるからさ。」

舌を出してお茶目を装って大谷が答える。

大倉という名前に、えみは一瞬ドキッとする。

『大倉さんも来るんだ。』





「俺、トンカツ食いたい。」

井上が話に割って入って来る。

「えッ。」

えみは驚いて井上の方を見る。

「作ってくれる?」

助手席に座っている井上が、えみの方を向いて犬みたいになって人懐こそうに聞いて来る。



「ぎゅ、牛乳も買おう!」

思わずえみの口からそんな言葉が出た。


「何で牛乳?」

突然牛乳と言い出したえみに、大谷が不思議そうに聞く。

「あ、えっと。あのー。」

あたふたしているえみを見て、井上が笑い出した。

「大谷さんにはヒミツっす。」

えみと井上は顔を見合わせ一緒に笑う。

「なんだよー。」




『なんだか楽しい。』
えみは心の中でそう思った。
< 46 / 117 >

この作品をシェア

pagetop