繋がる〜月の石の奇跡〜
あずさの家に向かっている途中、えみの電話が鳴った。

「もしもし?」

「もしもし、えみ!?」

「あず、遅くなってごめんね。もうすぐ着くから家で待ってて。」

「うん。分かった!気をつけてね。」

電話は心配そうな声のあずさからだった。

「あずさちゃんのこと待たせちゃって、悪いことしたなー。」

「大丈夫ですよ。」

えみは未だにドキドキが止まらない。

その様子を察して、大谷が井上の話を持ち出す。

「井上が寝起き悪いのすっかり忘れてたよ。朝電話入れるべきだった。」

大谷は、ちらっとえみの方を見る。

「二度寝してないといいですね。」

動揺を隠すように、えみが言った。

あずさの家に着くと、あずさは首を長くしてアパートの駐車場のところで待っていた。

「あず!ごめんね。」

「平気だよ!」

あずの荷物をトランクに積んで、えみとあずさは後ろの席に乗り込む。

「大谷さん、おはようございます!」

あずさが元気良く挨拶する。

「あずさちゃん、待たせちゃってごめんね。今日からよろしくね。」

「任せてください!」

Vサインをしながら、あずは大谷に返事をする。

「あれ?井上くんは一緒じゃなかったの?」

「ああ、あいつ寝坊して。今から井上の家に向かうから。」

「そうなんですかー。」

あずさは何か言いたげにしている。

「目覚ましにコーヒーでも買っててやるか。」

大谷が言い出す。


三人は大学の近くのカフェでコーヒーを買うことにした。

「私みんなの分買ってきますよ。」

えみが言った。

「私も一緒に行くよ。」

あずが続いて言った。

「そお?じゃぁお願いしていい?」

「大谷さん何飲みますか?」

あずさが尋ねる。

「アイスのブラックコーヒーお願いしていい?」

「はい!」

えみとあずさは車を降りて、カフェの入り口へ入っていった。

「井上くんは何飲むかなー?」

あずさが困ったように言う。

「井上くんはブレンドコーヒーに砂糖とミルク多めだよ。」

えみがさらっと答えた。

「へー。えみやけに詳しいじゃーん!」

あずさがニヤニヤしながら言う。

「前にたまたま聞いたの。」

えみが面倒くさそうに答える。

注文した飲み物を受け取り、えみは自分と井上用のコーヒーに砂糖とミルクを入れる。
井上のコーヒーには、自分に入れた量よりも少しだけ多めに入れた。

車に戻り、飲み物を飲みながら井上の家に戻る。

「じゃぁ、僕が様子見てくるね。」

大谷はそう言って、井上の部屋へと向かった。


「ねー!えみ!ビックニュースあるんだけど!」

あずさがこれ以上我慢できないという勢いでえみに話し掛ける。

「何?」

あずさの勢いに負けながら、えみが聞き返す。

「あのね、大倉さんが井上くんに告白したんだって!」

「え?」

えみの表情が一気に変わった。

『きっとあの日だ。』

えみの頭には、あの日の海辺の二人が浮かんだ。

「前に、えみが二人は付き合い始めたって言ったけど、その時はまだだったみたいなの。」

あずさは目をキラキラさせながら言う。


「それで、どうなったと思う?」


「ど、どうなったの?」
えみは息を飲む。





「井上くん、振っちゃったらしいよ!」



「え?」

えみの頭は一瞬真っ白になった。

『井上くんが大倉さんを振った?』

「あんな美人を振っちゃうなんてさすが井上くんっで感じ。でも合宿前に振られちゃって、今日から気まづいだろうねー。」


「あ、大倉さん急用で参加できなくなっちゃったみたい。」


「え!まぢ?じゃあ来ないのかー。急用って本当かなー?」

あずさは興味津々に話しを続けた。

そうこうしているうちに、大谷と井上が車にやってきた。

井上は、えみの前の助手席に座る。

「おはよ。」

何事もなかったように井上がえみに挨拶する。

「おはよう。」

えみは少し俯いて返事した。

シャワーを浴びた井上の髪の毛は少し濡れたままで、その無防備な姿にえみの胸はドキドキ鳴り始めた。
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