会長代行、貴方の心を全部わたしにください
新人賞結果の連絡がかかってきた時、電話に出た私は喋べることが出来なくなっていた由樹を思い、咄嗟に嘘をついた。

あの事故は雨の日に起きた。

由樹が上司の黒田さんと、ミステリー作家の原稿をもらいに行った帰りだった。

スピードを出し走ってきたバイクが雨でスリップし、横断歩道に突っ込んできた。

由樹は咄嗟に前を歩いていた黒田さんに手を伸ばしたが間に合わず、黒田さんはバイクに撥ね飛ばされた。

事故の衝撃と黒田さんを守れず怪我をさせた罪悪感は、由樹から声を奪った。

黒田さんは足の怪我で数ヶ月入院し、由樹に自分の仕事を託し、由樹は喋れないまま黒田さんの仕事を強制的に引き受ける形になった。

失意の中、大役を任された重圧に耐えながら、任された仕事を懸命にこなそうとしている姿は、観ていて苦しかった。
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