幸田、内緒だからな!
「知花の、父親だからです。娘を宜しく頼みます」
「はぁ? どういう事??」

 親戚一同には前もって会長から話してもらった。
 あ、いけない。
 お父さんって呼ばなきゃね。

 父の事を知らなかったのは直紀ただひとり。
 動揺がもろに表面から溢れ出している。

 藤堂のお母さんに至っては、口元を押さえてはいるものの、周りに声が漏れるくらい笑っている。
 わたしの母も苦笑い。

「知花、どういう事? お父さんって、何?」
「まだわかんないの? だから、幸田正男はわたしの父よ。あなたの運転手でもあるけどね」
「嘘だろ、だって今までそんなそぶりを見せなかったじゃないか」
「隠してたからよ」
「嘘だろう……だって俺達車の中で」
「あ、それここで言っちゃダメだって」

 今度はわたしが慌てる。
 親戚の前で恥ずかしい事暴露しないで。
 それ、絶対マズイから。

「何だよそれ……」

 すっかり参っている様子の直紀。

「それではそろそろ始めますが、宜しいでしょうか?」

 神父様が困っている。

「お願いします」

 それでも直紀の動揺はおさまらず、誓いの言葉を読み上げる時も噛み噛みだった。
 いつもは堂々と落ち着いている直紀が慌てふためく姿に、わたしは必死に笑いをこらえた。

 長く感じた式が終わり、今度は披露宴会場へと移動する。
 
「直紀、いい? 中のお客様は事情を知らないんだから、さっきのような動揺は隠すのよ」
「そんな事言われてもなぁ」
「あなたは社長。藤堂社長なんだからね!」

 そう気合を入れて、彼の背中をポンと叩いた。

「それでは、新郎新婦のご入場です」

 扉が開く。
 正面から当てられた光が眩しい。
 
 いざ出陣。
 そんな気持ちで歩み始める。
 
 おわり
< 35 / 35 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

マザコン彼氏の事情

総文字数/62,106

恋愛(オフィスラブ)69ページ

表紙を見る
手招きする闇

総文字数/17,252

恋愛(学園)24ページ

表紙を見る
If・・・~もしもあの時死んでいたら~

総文字数/139,116

恋愛(オフィスラブ)35ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop