真夏の青空、さかさまにして

「あずさは低血圧っぽさそうだなって勝手に思ってたんだけど違うんだねー。あ、もしかしてよく眠れなかった?自分の枕じゃないと寝られない人?」



茶碗を洗いながら背中越しに言う声は、ほんの少し聞き取りにくい。答えずにいると真夏が顔だけで振り返った。



「ねえちょっと、何か言ってよー!」

「別に……勝手に目が覚める」

「へえー、すごい。わたしは目覚まし鳴らさなきゃ絶対に起きれない。朝って苦手なんだよねぇ」



ああやっぱり苦手なんだ。じゃあどうして早起きなんかしているんだろう。夏休みなんだからゆっくり寝ていたらいいのに。

疑問に思ったけれど別にそこまで興味もなかったから何も聞かないでいたのに、にやりと笑って真夏が僕に尋ねた。



「どうしてわたしが早起きしてると思う?」



洗い物を終えて、ドンと僕の前に立つ。



「心底どうでもいい」

「嘘だー、気になるんでしょ。ねえ、ちょっとは気になるんでしょ?」

「うざいんだけど」

「またまたそんなこと言っちゃってー、眉間にシワが寄ってるぞっ」

「……どうしてそんなにうざいの?」

「こ、怖いから真顔で言うのはやめようよ……」



蛇に睨まれた蛙とはまさにこのこと。顔を青くしてぷるぷると震えるその姿は、肉食獣に追い詰められた小動物みたいだ。

まったく。昨日一日で、僕が冗談に乗ってあげるような楽しい人間じゃないってわかったはずだろうに、どうしてこうすり寄ってくるんだろう。ものすごく鬱陶しい。
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