真夏の青空、さかさまにして

剣道部の夏合宿


八月に入った。照りつける日差しがさらに強さを増して、いよいよ夏本番だということをジリジリと主張している。


夏が大好きだと公言する真夏は毎日楽しそうに練習に励んでいるが、反対に夏が大嫌いな僕は日に日に過ごしにくくなる気候にイライラとしていた。

そんなある日のことだった。真夏が、剣道部の合宿を二泊三日で山下家ですると言いだしたのは。



「お父さんとお母さんが旅行に行くから、お兄ちゃんは友達の家に泊まりに行くんだって。だから好き勝手し放題ってわけ!」

「へえ、いいんじゃない」



じゃあ確実に二日間は真夏との練習が休みってわけだ。


ここ数日、毎日欠かすことなく一、二時間剣道をしている。とは言っても僕はほとんど受けるだけで、アドバイスをするためにそこに立っているようなものだ。

だけど、だからと言ってしんどくないわけではない。防具のあの重圧や、蒸すような熱気から少しの間でも解放されるのだと思うとほっとする。


抑揚のない声で言いながらも内心大喜びしていた僕だったが、そんな僕に待てをかけるように真夏が言った。



「それで、あずさに先生をしてほしいの」

「……は?」

「合宿で剣道の先生をしてください!お願いします!」



飲んでいたお茶を噴き出しそうになった。


……先生?いやいやおかしいだろう。同い年か年上の人たちに僕が剣道を教えるってこと?しかも見ず知らずの。

そもそもそんなことよりも、僕はもう下手くその真夏に教えるだけで手一杯だというのに。
< 72 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop