私に優しい理由
ヤナギさんは専業主婦なようで、夫は仕事、娘は幼稚園とで1人らしく。

今日も家事がひと段落ついて、暇ができたのでいらしたのだとか。


なんとなく家へ上がってもらってお茶を出しただけなのだけれども、なかなかの調子で話が広がっていきました。

…と言っても、大半はヤナギさんの独り言に近いトークを聞いていただけなのですが。


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すみませんね、いきなりお邪魔しちゃって。なにせ、新しくあなたが越してきたからお話をしてみたいという思いがあって。それに、今まで1人だった時間がこうやってお隣さんとのお付き合いになるのも良いと思いません?
私、こう見えても寂しがりやなんですのよ。…って、私のわがままですよね、これ。いつも主人に怒られますのよ、「自己中心的だ」ってね。
あら、そう言えばサクラさんにはお子さんがいらっしゃるの?
ほら、あそこに置いてあるベビーカー。さっきから気になってたの。

やっぱりそうね!私、そういうところには目が効くのよ。
何歳くらいなの?

それならヨウちゃんと同じ歳じゃない!あ、ヨウちゃんは私の娘。この前挨拶に連れたあの子です。
私の大事な一人娘なの。高齢出産でね…。

やだ、サクラさんったら。私今年でもう43になるんですのよ、実年齢より若く見えるだなんて。お肌の手入れをしていたお陰かしら。
だってねぇ…、ヨウちゃんを幼稚園に迎えに行けば、若いお母さんがた沢山見えるでしょ?こんなおばさんが行ったら、ヨウちゃんかわいそうじゃない?
サクラさんが言うように、若く見られてれば嬉しいのだけれどね…。

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結局、ヤナギさんが「あ、夕飯の支度!」と言って帰って行くまで、およそ2時間も経過していました。


一方的でしたが、なんだかんだで楽しい団欒となりました。

ただ、この日の団欒のおかげで、ヤナギさんにあなたの存在を知られてしまいました。
直接あなたを見られたのではありませんが、少しでもあなたに関連する質問を投げかけられる度、なんだか公衆の場で赤っ恥をかいたような気持ちにさせられました。


あなたの歳を言ってしまったことでついに、あなたと他人とが「コミュニティ」として繋がってしまいました。

私が最も恐れていたことです。

ヤナギさんは親切なのですが、少しフレンドリーが強く、引っ越してきたばかりの私達(あなたを含め)を気遣ってくれました。
ですが、深い心配が多くの質問となり、ちょっとした粋な計らいがお節介となり、少しの好奇心が迷惑となっていました。

それは具体的に言うと、越してきたばかりで身寄りの無かろうあなたの預け場所。そう、幼稚園に入ったらどうかと、進めてられてしまっていたのです。

ヤナギさんの娘さんと同じ、梅花幼稚園へと…。
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