コソ恋 ~マセテイルと言われても構わない
2 カチー
「拗ねるなって。又、俺のプリント間違いがあったのか?」

「はい、ここの大宝律令が、七四三年となっていますが、七〇一年ですよ。七四三年は、平城京ですよ。むう」

 礼音はさくさくと片付けた。
 このチェックは単に口実だから。

「おー、よし! よくぞ気付いた。流石ケソ生徒」
「神谷先生、今日は押しますね」

「俺は、読み物を提供している訳ではない。勉強になる物を配っているんだ」
「そうなんですか……。掌で転がされた気分です」

「頭ぽんぽんして欲しいのか?」

 きゃあああああ!
 およしになって。

「何、目なんか瞑っているの? する訳ないだろう」

 あ、そうですよね。

「分かっていますよ。殴られるかと思ったまでです」

 キーンコーン……。

「し、失礼致しました」
 ぺこりと礼をした。

「ああ、新美……」
 神谷の声は低く響く。
「はい?」
 くっと振り向いた。

「あんまりマセタことすんじゃねえぞ」
 耳元で囁かれた。

 カチー。
 コチー。

 固まってしまったじゃない。
 あ、次の国語に間に合わない。
 国語の成(なり)ばあ、超怖いんですけど……。

 ギイイギイ……。

 松組の戸を開けると、静かに雷が落ちた。
「はい、三分遅刻しました。申し訳ごじゃりません」
「何ですか、その言葉使いは」

 バン。

 成田八千代(なりたやちよ)先生、机を叩く。
「申し訳ごじゃりません」
 カチコチに頭を下げた。
「立っていなさい!」
 教室中に大きめの雷が落ちた。

 ごめんなさい、本当に緊張しているのです。
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