社長、僭越ながら申し上げます!
青天の霹靂とはまさにこれ?!
あ、り、え、な、い

「乃菊ー!まだー?」

「あの、社長…で、ですから…」

「まだかかるの?…開けるよー?」

「だ、だ、ダメです!!すぐ仕度しますから!!」

私は慌てて溜め息混じりに試着室でドレスに袖を通した

ちなみに試着室とは言っても…

(何畳あるのよ…)

だだっ広い試着室らしき場所、鏡が壁一面でプリンセスラインのロングドレスを着てもきっと全身がきちんと映るだろう

私は何回目かの試着でクタクタで…忌々しい気持ちで着替えたドレスたちを睨んだ

(もうコレで決めて…)

意を決してカーテンを開くと…社長が大袈裟に目を見開いた

「イイ!イイよ乃菊!!よし、これにしよう」

その社長の言葉に店員さんもニコニコとしながら
私に頭を下げてから入室し、細部を合わせてくれた

「壱田様、靴はこちらで…いかがでしょうか?」

ドレスはロングのシフォンドレスで、ハイネックタイプ
胸元はレースになっている綺麗な煉瓦色

それに店員さんは艶消ししたシルバーのパンプスを合わせた

「あ、いいね…抑えたシルバーで上品だ」

「有り難うございます…ではこちらでご用意致します」

「あー、さっき着たサーモンピンクのやつと濃紺のも包んどいて」

「畏まりました」

サササと手早くドレスをかき集めた店員さんは止めるまでもなく奥へ下がって行ってしまった…

「ちょ、ちょっと!あ、あのっ社長!!」

仕方がないので私は社長の腕を掴んだ
高そうなオーダーメイドのスーツの上質な質感…

「何?腕組みたいの?いいよ?フフフ可愛いなぁ乃菊は!」

「ちが、違います!仕事用で、だから1着で充分なんです!!」

(1着だって目玉が飛び出る値段だったもの!)

「あー、そんな事?乃菊が可愛くなるためのプレゼントだから、気にしなーい!フフフ…」

「あ、いや…ほらって、社長!聞いてます?」

社長は私の腕をしっかりホールドして…
指先でスリスリしている

「すべすべお肌だね…あぁ乃菊…可愛い!次はメイクだー!パーティーが楽しみなんて何年ぶりだろう!ハハハ!」

(だ、ダメだ…話が通じない…)

後で返品できるかな…なんて考えながら、私は社長にズルズルと引き摺られるように店を出た

あ、り、え、な、い!!!

まさか、会社のキラキラ王子が
地味で冴えない、目立たない、色気ない

『ない、ない、ない』

の私を甘やかしている!!!

そう、これは夢でも幻でもない私の現状なのです

ことの始まりはたぶん、あの日…






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