愛すべき、藤井。


渋々 歩き出した夏乃を見て、俺もチャリをおして歩き出す。


また俺んちに寄ってチャリ置いてくしかねぇか。駅に置いてってもいいけど、どうせ帰りも夏乃送って帰るし。

チャリは、いいや。


「ね、藤井」

「ん?」

「今日は私とデートってことにしない?」

「…………は?」


へへっと笑う夏乃は、少しバツが悪そうに俺から視線を逸らして、それから「今日だけ!」そう付け足して俺を見た。


ドクンドクンと心臓が音を立てる中、俺の頭は追いつけずにフリーズしたまま。


「1回でいいから、藤井とデートしてから終わりにしたいんだわ。私ん中のケジメ」

「っ……」


夏乃が言う『終わりにしたい』って言うのはきっと、俺への気持ち……ってことか?



「はい!そうと決まれば今日1日、藤井は今から私の彼氏ね」

「は?……ちょ、おい!」


何も言わない俺に痺れを切らしたのか、夏乃は勝手に決めて歩くスピードを少しだけ早めてしまった。


……でも、今日1日夏乃とデートして、夏乃の気が少しでも晴れてくれるんなら、夏乃の気持ちに応えられない俺も、どこか救われる気がした。


自分で自分を、


「夏乃、手ぇ」


ズルいやつだなって、思う。
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