ヒミツにふれて、ふれさせて。


「おいで」って言ってくれたのに、わたしの身体は動かなくて、珠理に手を繋がれたまま立ち尽くしてしまう。


「…めご?」


泣きたいわけじゃない。何を言いたいわけでもないし、この人に言ってもらいたいわけでもない。

もう、じゅうぶんだ。オジサンにも、色々聞いてもらったし、アドバイスも貰った。

これ以上、わたしは何を考えているの。


「めご、」

「…」


まるで、何度聞いてもらっても、埋まらないようなポッカリと空いた何か。

きっと、今までリョウちゃんがすみついていた、何かが。


…わたしには、足りなくて。


「———…」


立ち上がった珠理を、押し返す力はなかった。
押し返すつもりもなかった、という方が、正しいのかもしれない。



「…めご」



気がついたら、珠理の声が今までで一番近くで響いた。



…何もかも、違う。体温も、身長も、匂いも、力も。

リョウちゃんとは、まるで違う。


「…っ、わたし、最低…」


まるで違うのに、どうしてわたしは、抱きしめられたこの腕に縋るように、泣いているのだろう。

この人は、リョウちゃんじゃない。

それどころか、他に忘れられない人がいる、ただの友達。


そんな人に慰められている自分が、ものすごくずるい人に思えてくる。


「…最低じゃない」

「最低…だよ。ごめんなさい…」


誰に対しての、“ごめんなさい”なのか。そんなことも、よく分からないのに。

さみしくて、さみしくて、どうにもならないくらい、くるしい。



< 120 / 400 >

この作品をシェア

pagetop