囚われのシンデレラ
薫の梳かす手付きはとても丁寧で気持ちいい。


「そう?俺は紫の髪はお人形さんみたいで可愛いと思うけど」


自分の髪はあんまり好きじゃなくても、薫に褒められると嬉しい……


薫は素早い手付きで髪を編んでくれた。


「わあ、今日は三つ編み?珍しいね」


「うん。紫はどんな髪型でも似合うから」


鏡には二つくくりに三つ編みした自分の姿が映っている。


毎朝薫に起こしてもらって、こうして髪を結ってもらっている。


薫との関係は?と聞かれるときは一応兄妹だと答えることにしている。


……でも、本当はあたしと薫は血は繋がっていない。


あたしは幼い頃に両親を失い、施設で育てられていた。


でも、転機が訪れたのは11歳の時。


薫は17歳の時だった。


突然、薄暗いどんよりとした施設が華やいだ。


現れたのは完璧な王子様。


さらさらの黒髪。


切れ長の瞳。


鼻筋の通った端正な顔立ち。


何もかもが完璧であたし達とは何もかもが別の世界の人に思えた。


それに薫は園長先生に聞いたところによると、日本に昔から続く名家『綾小路家』の御曹司。


綾小路家は名家であるとともに日本の経済を動かす大財閥でもある。


まさに正真正銘の王子様。


完璧な美貌と黒いスーツの彼を見てあたしは胸がときめいた。


薫は園長先生と何か話をした後、お礼を言って帰って行った。


あたしは薫の姿が気になって車で去っていくその瞬間までずっと彼を見つめていた。
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