副社長のいきなり求婚宣言!?
 ふわふわとした足取りで、とにかく指示された業務はまっとうしなければと、帰路に着く波から外れた道を行く。

 警備員が待機する部屋の小窓には、今はベージュのカーテンが掛かっていた。

 その脇の薄暗い通路の突き当たり。

 内側からであれば何の不都合もなく開けられる人一人分の重い扉を押し開く。

 社屋の空調が適度に保たれていたことが贅沢だと思い知らされるのは、陽の暮れた街の冷気が容赦なくコートの隙間に侵入してきたからだ。

 ざっと吹いたビル風に顔を背け、乱されたショートボブの地味な黒髪を押さえる。


 ひと気の少ない歩道に降り立ち顔を上げると、そこにはまるでオフィスな男のファッション雑誌から切り抜いてきたようなスタイル抜群の超絶イケメンが、歩道に横付けされた黒塗りのセダンに寄り掛かって立っていた。

 街灯だけの頼りない灯りでも、副社長様の美麗な容姿は劣ることを知らない。
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