ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 そして、電話の向こうのナツメは、楽しそうにケラケラと笑っている。

 営業本部長――。
 HFの御曹司である蒼佑のことだろう。それ以外に考えられない。

「なっちゃん、今から帰ってくるの?」

 だとしたら先回りして早く帰らねばならない。そう思っておそるおそる尋ねたのだが、

【ううん、せっかくだから、そのイケメンとメシに行ってこようと思って】
「えっ!?」

 まさかの展開に、葵は息が止まりそうになった。

【うっちーも連れて行くから、帰りの心配は無用だよ。じゃあ、ゆっくり休んでてね】
「あっ、なっちゃん……」

 そして通話はぷつんと切れてしまった。

「嘘でしょ……」

 自分が逃げた相手と、弟が食事に行くという。いったいどういう運命のいたずらだろう。

(あの人が、ナツメに本当のことを話したら、どうしよう……)

 まさかと思いたいが、考えられなくもない。

 葵は吐きそうになりながら、必死に考えた。

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