ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 蒼佑は一方の手で葵のバッグを持ち、もう一方の手で腰を抱き寄せて、ゆっくりと階段を降り、入り口で待っていたタクシーに葵を乗せ、その隣に乗り込んだ。

「あまりスピードを出さないでほしい」

 蒼佑は運転手に葵の住む町の住所を告げた後、そのまま葵の肩を抱き寄せて、自分にもたれさせ、無言になった。

 どうしても体が重く、離れるのが億劫だった。
 そう、億劫だったから、蒼佑の肩を借りているだけだ。

(目の前にもたれられる壁があるから、もたれているだけだし)

 そんなことを自分に言い聞かせながら、葵は体から力を抜いた。

(――いい匂いがする)

 蒼佑が使っている香水の香りだろうか。前回とは違う。あまいフルーツのような匂いがする。いつも同じ香りを使っているわけではなさそうだ。

 仕事柄男性のファッションの勉強はしているが、蒼佑のように生まれてこの方一流の物しか身に着けていない男性は、香りまで洗練されている。
 きっと自分が知らないようなメーカーの物なのだろう。もしかしたら香水もオーダーで作らせているかもしれない。天野蒼佑という男にはそういう振る舞いが似合うのだ。

 
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