gift
トイレから戻り、ラストオーダーをまとめ終えて、私はようやく溶けかけたゆずれもんシャーベットを掻き込んだ。
スプーンじゃ埒があかないから、器に口をつけてシャーベットを流し込む。

「はあ!?」

夏歩ちゃんの大きな声が聞こえて、器をくわえたままでそちらを見ると、彼女の腕を課長ががっしり掴んでいた。

「いつも思ってた。斉藤さんは細やかな気遣いができる子だなって。今日だって、さりげなく俺や岩本さんに料理やお酒を渡してくれる。こんなにできた人は、今時なかなかいないよ」

バケツをひっくり返したような色気をたれ流している課長の目は、かつて見たこともないほどに酔っていた。
瞬時に、飲ませ過ぎたことを悟る。

「私……そういうつもりじゃ……」

「ずっと前から好きなんだ。俺と付き合って欲しい」

「えっ! ヤです!」

上司の公開告白に対して、悩んでみせる礼儀もなく、夏歩ちゃんは斬って捨てた。

「どうして?」

「『どうして?』って、だって……」

困りすぎて潤んだ目で私に助けを求めてくる。
きっとそれすら、課長にはかわいく見えているだろう。
私も相変わらず器をくわえたまま、視線だけで夏歩ちゃんに謝罪した。

(無理無理無理無理! 「ハゲだから」なんて言えないよ!)

「手を離してください! セクハラです!」

「斉藤さんが付き合ってくれれば、セクハラにはならないよ」

「付き合わないです!」

「理由を教えてくれ。言うまでこの手は離さない」

「ご自分の頭に手を当てて、よーく考えてください!」

課長の熱烈な攻撃と、ギリギリでそれをしのぐ夏歩ちゃん。
そしてその隙に、黒毛和牛ジューシーステーキを追加して堪能する岩本さん。
寝始める人。
隣の女子会に紛れ込む人。
混沌と混乱。
幹事は私。

「そ、そうだ! もう中締めの時間だった! 夏歩ちゃん、湊くんに花束渡す係りお願い!」

幹事の権限で課長の腕から引き離し、男性向けにシックにまとめられた花束を差し出すと、

「そんなのあやめさんの役目じゃないですか。私、その隙にトイレに行くフリして脱出しますので!」

と、そのまま湊くんの前に押し出された。

渋々見上げた湊くんは、いつもの重苦しい前髪とメガネだ。
その目を見ながら話すなんてとてもできないので、俯いて考え考え絞り出す。
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