gift

「なんでそんなに忙しいの?」

時間が欲しいと言って事業所の契約社員になったのに、そうして作った時間は、何に消えているんだろう。

けれど、答えたくない時の湊くんは、絶対に口を割らないのだ。
おにぎりを食べて手についた海苔のかけらを、一生懸命布巾で拭っているけど、絶対無視しているだけだと思う。

タイミングよく(悪く?)注文していた担々つけうどんが運ばれて来たので、私も追及の手を緩める。
最初普通に山菜かけうどんを注文しようとしたら「ここの店ではつけうどんにした方がいい」と却下された。
珍しいから担々つけうどんにしたのに「また邪道な」と不満そうな顔をされたのだけど。

結局無視し切った湊くんは、海苔が取れないらしく、トイレに手を洗いに行った。
ハンカチで手を拭きながら帰ってきたのを見て思い出す。

「そうだ! これ返す。ありがとう」

湊くんの言う「常識」通り、洗ってアイロンをかけたハンカチに真新しいハンカチを添えて、テーブルの上を滑らせた。

「別に返さなくてよかったのに」

「洗濯したら、もう湊くんの匂いしないんだもん」

変態発言は苦笑ひとつでかわされた。
そして新しい方の袋を開けて、がっくりうなだれる。

「これ、使うの? 俺が?」

「ちゃんと確認したけど、メンズ・レディース兼用だって」

上野駅周辺をぐるぐる回って選んだ一品は、エメラルドグリーンに白の水玉模様。
もちろんその水玉はよく見ると全部パンダだ。

「ありがとう。ここぞ、という時のために大切にしまっておく」

「毎日『ここぞ!』と思ってよ!」

やっぱり無視して、つけうどん大盛1.5倍(ごまだれ)に集中されてしまった。
そんな湊くんをうっとり眺めつつ、担々つけうどんをすする。

「あれ? これ、すっごくおいしいよ! 変な担々麺よりずっと好きかも。ちょっと食べてみてよ!」

お盆ごと湊くんに押し付けると、疑いの眼差しを落としながら赤いつけだれに白いうどんをひたす。
左手で器用にスイスイ食べる姿は、右利きの私には少し違和感があって、同時にとても憧れる。
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