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湊くんがバックヤードに飛び込んできたとき、私は前郷(まえごう)さん(販売部の店長さんだったようだ)に、湊くんの話をいろいろと聞いているところだった。
前郷さんも奨励会に在籍していたらしく、しかも今度湊くんが編入試験を受ける際に師匠についてもらった奥沼(おくぬま)政重(まさしげ)七段のお弟子さんだそう。
つまり、湊くんの兄弟子のような存在だった。

「今井さんっ!」

「湊くーん。不本意だけど久しぶりー!」

前郷さんが出してくれたパンダサンド(いや、これはスーパーで売ってる方だな)をくわえたまま、わざとらしく満面の笑みで振り返って……口から落ちた。

「山籠もり?」

いつもスッキリカットされていた髪はボサボサ、髭は無精ひげの域を越えつつあり、よれよれでくたくたのTシャツとパンツは、コンビニに行くにも躊躇われるようなファッションだ。
どの辺りに住んでいるのか知らないけれど、オシャレなショップも多いこの辺りに、よく来られたものだと思う。

「警察沙汰だなんて言うから、準備できなかったんだよ。……何やってるの?」

「湊くんおびきだし作戦」

「前郷くんも!」

「なんか楽しそうだったから、つい」

前郷さんはもうひとつイスを用意してくれたけれど、私は入り口に突っ立ったままの湊くんの前に立ち塞がった。

「手紙読んだよ」

「そう」

「だいたいのことはわかったと思う」

「うん」

「だけど肝心なことが全然書かれてないから、聞きにきたの」

髭面の湊くんににじり寄る。
これまでは私の聞き方がよくなかったのだ。
「付き合ってください」なら「無理」。
「デートしよう」なら「しない」。
だけど逃げ場のないくらい核心を突いたら、きっと反応は違う。

「湊くんは私のことどう思ってるの?」

「……どう、って」

「『好き』?」

かんたんには答えないと思ったけど、案の定噛みしめるように口を堅く結ばれてしまう。

「じゃあ『大好き』?」

「は?」

「それとも『愛してる』?」

「ちょっと、選択肢が……」

「それ以外何があるっていうのよ!」

前郷さんの時よりずっと遠慮なく、湊くんのよれよれした胸ぐらを締め上げる……身長が全然足りないから、締め下げる、が正解。

「私のこと好きでしょう? 絶対そうだよね? わかるもん! それなのになんで? なんで付き合ってくれないの? なんでいなくなっちゃうの? なんで電話番号変えたの? ねえ、なんで?」
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