めはくちほどに
河上がその言葉に「つるやですね。いーなー」と開いた扉を見ながら言う。
入ってくる人達に「おつかれさまです」と頭を下げる。
副社長の姿を見て、少し驚いていた。
私たちは奥に進んで並んで立つ。
きゅ、とお弁当箱を持っていない方の指を握られた。
顔を見上げると、副社長が悪戯に微笑んでいる。
誰かに見られたらどうするんだ、とはらはらしながら前に向き直る。
「紺野さんはお弁当?」
「はい。昨日の残り物です」
「鯵の南蛮漬けだ」
「そうで……」
エレベーター内がしんとしている。河上が呆れたようにこっちを見ていた。