お茶にしましょうか
「あ、あの、駄目なら駄目って、むしろ、一思いに言ってください…」

「そんな!駄目だなんて、とんでもございません。喜んで。一緒に帰りましょう?」

「え…ほ、本当ですか…!」



あの江波くんが、華開くように表情を明るくさせたのです。

私の一言で、ここまで表情を変えてくださるだなんて、何と可愛らしいお方なのでしょうか。

この胸の高鳴りは、何といたしましょう。

そうして、二人、横並びに歩き始めたのです。

しかし、お互いして無言で居たので、私から思わず平凡な話題を出しました。



「江波くんは、この冬休みは何処かに行かれましたか?」



すると、江波くんは一瞬、私を瞳だけで見ると、少し目線を空に向けました。



「まあ、自動車学校に通ったり…友人たちと初詣に行ったり…あとは…何をしたかな…」

「たくさんのことをして、充実した冬休みを過ごされたのですね」

「は、はい。まあ」



江波くんは、はにかみながら短く言うと、少し肩からずり落ちた鞄を直されました。

そして、少し間をおいた後、一度途切れた会話を彼の方から引き戻しました。



「では…は、萩原さんは、冬休み、何かされましたか?」

「そうですね。私は、練習ばかりをしておりました」

「それは…熱心なことですね」

「ええ。アンサンブルコンテストが近付いていますから。この後も、練習に行く予定です」



私が言い終えれば、江波くんは申し訳無さそうな表情となったのです。
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