わたしが小説を書くように
 気が遠くなるほど待って、ようやくわたしの番。

 先生は、近くで見ても、テレビと同じくらいかっこうよかった。

 声が裏返らないよう注意しながら、サインしていただくため、名前を言った。


「高校生?」

 先生は、わたしをちらっと見て、身分を当ててしまった。

「そうです。一年生です」

「そう。僕は今年から、××大学で教えてるんだ」

「そうなんですか」
 これは本当に、初耳だった。

「よかったら、うちの学校の学生になるといいよ」

「はい、ありがとうございます」

「頑張って」


 握手。

 初めて握る先生のてのひらは、乾いていた。


 わたしの希望する進路は、決まった。


 先生は、この日のことなんて、すっかり忘れているはずだ。
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