わたしが小説を書くように
 わたしは、緊張と興奮で、どうにかなりそうだった。

 深呼吸、深呼吸……。

 落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせ、心臓の鼓動を感じながら、先生を鑑賞した。


 サイン会でお会いしてから十年以上がたち、先生は中年の大人の男になっていた。

 低い声と漂う色気に、すっかりやられてしまう。


 おじさん好きの若い女の子に持っていかれるのだけは嫌だと思っていたけれど、
 登壇したときに少しざわめきがあったくらいで、その心配はなさそうだった。

 至福のときというのは、こういうことを指すのかもしれなかった。
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