スノーフレークス
「ええ。避難所のことです。僕、郊外のマンモス校の出身なんですけど、新興住宅街の中学って荒れているんですよ。僕ってこんな見てくれでしょう? だから中学の時はいじめられていたんです。なまじっか勉強だけはできたものだから余計にやっかまれました。今は真面目な人たちに囲まれていますから、さすがにいじめられることはありませんけど、やっぱり人付き合いは苦手なんですよ。教室にいるとちょっと息苦しくなるからここへお邪魔しています」
「高校には中学にあるような心の教室が無いもんな」
 クリスが穏やかな声で言う。心の教室とは、教室になじめない生徒や不登校ぎみの生徒が通う部屋だ。
「じゃあ、ここは教室の雰囲気にいまひとつ馴染めない生徒たちが休みにくる場所なのね」
「ああ、そうさ。生徒だけじゃなくて顧問のアイリス先生も遊びにくるよ。ALTは言ってみれば客員教員だから職員室ではお客さん状態なんだよ。彼女は社会適応性のある人だけど、なにせ外国から単身で日本に来たからね。たまにここに来て僕と母国語でペラペラしゃべるとスッキリするみたいだ。このおやつを用意してくれたのもアイリス先生だよ」
 外国人教師と英語で話せるなんて、やはりハーフのクリスは英語が堪能のようだ。
「ということは」
 私はつぶやいた。彼の気遣いをさり気ないものとして、いちいち指摘しない方がスマートなのかもしれないけど、言葉は私の思いに先んじた。
「パターソンさんはこんな中途半端な時期にやってきた転校生の私を思いやって、リフュジに誘ってくれたのね」
 私の問いにクリスは肩をすくめる。
「まあ、そう受け取ってもらっても構わないよ。それから、僕のことは『クリス』と呼んでいいから」
 二年の私が何故この時期に部活の勧誘を受けるのかと思ったら、そういうわけだったのか。四人組が評していたとおり、クリスは思いやりのある人だった。
 私は社会適応性が低い方ではないから、クラスの中に四人組の友だちができた。でも、なにぶん私は「異邦人」だから、そのうち思いがけない壁にぶち当たることがあるかもしれない。少なくとも一つ言えることは、私には勉強に対する不安がある。定期テストで赤点を取りまくって、それこそあの問わず語りの池に引き寄せられてしまったらどうしようかと思う。
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