スノーフレークス


 古城公園で話して以来、私は氷室翠璃と友達付き合いをするようになった。彼女はもう私に自分の正体を隠す必要がなくなったので私と話してくれるようになった。それでもまだ教室では目立たないようにしたいらしく、彼女が私と四人組の輪の中に入ってくることはないけど、教室の外では私と仲良くしたいみたいだ。
 教室の中では孤立している氷室さんだけど、素顔の彼女は別に暗いってわけではない。話をすると結構しゃべるし、笑ったり冗談を言ったりもする普通の女の子だ。

 期末テストが終わった後、私は氷室さんの家に招かれた。
 なにしろテストが終わるまでの日々は、恐怖のテストのことで頭がいっぱいで氷室家訪問のことなど頭から抜け落ちていた。私は数学と地理でなんとか赤点の危機を回避し、晴れて自由の身となった。放課後の家庭教師、クリスと手島君のお陰で今のところ大ピンチに瀕することはない。
 古城高校ではコース別に成績上位者を廊下に貼り出す。手島君は一年生のトップテン圏内にランクインし、澁澤君は二年の理系コースで次席を獲得した。文系コースでは四人組の高瀬さんが十五位に入っていた。
 また、英語�Uの教師がテストの答案を返す時、クリスが二年生の中で最高得点を取ったと言っていた。彼は総合得点でも上位者のランキングに名を連ねている。この私はもちろんお尻から数えた方が早いところにいる。最下位ではなかったのが信じられないくらいラッキーである。

 そんなこんなで怒涛のテスト週間は過ぎ去り、今学期はあと補習期間を残すのみとなった。小春日和の週末、私は高岡駅からバスに乗って氷室家に向かった。

 水色のバスの車体は昭和期に製造されたものらしく、車内のシートカバーやつり革も飴色の照りが出ている。市街地にある昔ながらのアーケードが付いた商店街を過ぎ去り、私の乗ったバスはひたすら県道を東に進む。

 雪女が住む家は山の奥深い所にある一軒家か、はたまた町中にある数寄屋造りの日本家屋だろうと想像していた。けれど私がバスを降りたのは郊外の新興住宅地だった。人目を忍んで暮らしたいわりにはずい分住宅が密集している場所を選んだものだ。氷室さんはこの町で母親と二人暮しをしている。父親とはずっと前から別居しているらしい。
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