眠り姫の憂鬱
ショウゴさんが部屋に戻ってベッドの端に座った私を見つけ、


「美月、そんなに不安そうな顔をしないで。
俺がずっとそばにいるから…」と私の手をとり、手の甲に唇を付ける。

「…はい」と私が見上げると、

「美月、受け取って欲しい。」とスーツのポケットから指輪を取り出し、私の右手の薬指に付けてそっと手を握った。

美しい贅沢なダイヤモンドの指輪だ。
大きな正方形のダイヤモンドのの周りにぐるりと丸いダイヤで縁取られ、
リングの部分にもダイヤが付いている。

「で、でも…」と言うと、

「今までの事は思い出せなくてもいい。これから、俺を愛して欲しい。」と私の顔を覗く。

「…」私が返事ができないでいると、

「今は指輪を付けておいて。
…もちろん…どうしても愛せなければ…この先、指輪を返してくれても構わない。
結婚は…もう少し待つから…一緒に暮らしながら、考えて。
…俺はこれまでどおり美月を愛すよ。」とそっと頬を撫でてくれる。

「…はい。」とショウゴさんの瞳を見つめて、指輪にそっと触ると、

「良かった。突き返されなくて…
両親には婚約している。と言ってあったから…指輪を付けて貰えなかったら
どうしようかなって…ちょっと思ってた。」とくすんと笑って私を立ち上がらせ、

「お嬢さんを大切にします。」と『お母さん』に深く頭を下げ、

「美月をよろしくお願いします。」と『お母さん』もショウゴさんに深く頭を下げた。

「美月、時々声を聞かせてね。ショウゴさんを大切にして。」

と『お母さん』は私の頭をそっと撫で、先に部屋を出て行った。


私が声を出せずに泣いていると、

「美月、落ち着いたら、一緒に会いに行こう。
もちろん、俺達の家に遊びに来てもらってもいい。」

とショウゴさんはそっと私を抱きしめ、頬に唇を付けた。

私は頷き、ショウゴさんの胸で少し泣いた。


『お母さん』心配させて、ごめんね。

思い出せなくて…ごめんなさい。

そう、心の中で何度も謝っていた。
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